しい事件に見えますね。……つまりその悪人の何とかいう青年が、大恩ある品夫さんのお父さんを、山の上で惨殺して、財産を奪って逃げた事になるので、この事件は、そうした残忍非道な性格によって行われた、計画的な犯行という事になるでしょう」
「全くその通りです。実松源次郎氏を殺さずとも、その恩義を忘れただけでも当九郎は大罪人だ……と養父《ちち》は云っておりました」
「ところがです……ここで今一つお尋ねしますが貴方は……貴方のお養父《とう》様でもおなじ事ですが、この三ツの事件を別々に引き離してお考えになった事は、ありませんか」
「……………」
健策は膝を抱えたまま頭を強く左右に振った。思いもかけぬ……という風に……。黒木は白い歯を露《あら》わして微笑した。
「……ハハア。おありにならない。多分そうだろうと思いました。それならば試しに、この事件の三ツの要素を、一ツ一ツに分解して考えて御覧なさい。そんな有《あ》り触《ふ》れた殺人事件なぞより数層倍恐ろしい……戦慄《せんりつ》すべき出来事となって、貴方がたの眼に映じて来はしまいかと思われるのですが」
「……数層倍恐ろしい……」
「そうです……おわかりにな
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