。ハハハハハ、こう云っちゃ失礼かも知れませんが……」
健策は相手を皮肉るでもなくこう云って笑うと、思い切って大きな欠伸《あくび》を一つした。硝子《ガラス》窓越しにチラチラ光る綿雪を見遣りながら……。
「……成る程……それでは……私の意見《かんがえ》を……申してみますが……」
黒木はやっと決心したらしく、窮屈そうにこう云いながら、火鉢の横に転がっている大きな湯呑を取り上げて白湯《ゆ》を注いだ。すると健策もそれに倣《なら》って、長椅子の下から硝子コップを取り上げた。
二人の間には又も新らしい談話気分が漲《みなぎ》った。健策はフウフウと湯気を吹きながら、剽軽《ひょうきん》な調子で云った。
「……どうか願います。品夫の一生の浮沈にかかわる事ですから……」
しかし黒木はどこまでも真面目な、無表情のうちにうなずいた。湯呑を片わきへ置きながら……。
「イヤ……重々御尤もです。それじゃ、お話できるだけ、してみましょうが、その前にもう一つお尋ねしたい事がありますので……」
健策もコップを畳の上に置きつつ、気軽にうなずいた。
「ハア。何なりと……」
「……イヤ。ほかでもありません。つまり品夫さん
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