るのも、何かの因縁《いんねん》だろうと思ってコンなお話をするんですからね……御腹蔵の無いところを打ち明けて下すった方が、却《かえ》って功徳《くどく》になるんですよ……ハハハハハ」
こう云ううちに健策は全く昂奮が静まったらしくノンビリした顔色になった。同時にいくらか話に飽きが来たらしく、あおむいて小さな欠伸《あくび》を出しかけた。しかし黒木は依然として表情を動かさなかった。なおも腕を深く組んで何事か考えまわしているらしかったが、そのうちに両手で眼鏡をかけ直しながら、軽い溜息《ためいき》と一緒につぶやいた。
「サア……それをお話していいか……わるいか……」
「ハハハハハ。お話出来なければ無理に伺わなくともいいんですがね。……元来これは僕等二人の間に、秘密にしておくべき問題なんですから……しかし、くどいようですが、たとい品夫がドンナ身の上の女であろうとも、二人を結びつけている死人の意志は、絶対に動かす事が出来ない訳ですからね。よしんば品夫のためにこの家が滅亡するような事があっても、それが故人の希望なんですから、その辺の御心配は御無用ですよ……ただ参考のために承っておくに過ぎないのですからね
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