を叱ったものだそうです」
「ハハア……一種の変態ですかな」
「そうだったかも知れません……とにかく今までに無い夫婦喧嘩が、そんな事で時々起るようになったそうですが、そのうちに丁度今から二十年|前《ぜん》の事……品夫の母親が、品夫を生み落したまま産褥熱《さんじょくねつ》で死ぬと間もなく、甥の当九郎が又、何の理由も無しに、叔父の源次郎氏と私の養父《ちち》へ宛てて、亜米利加《アメリカ》へ行くという置き手紙をしたまま、行方不明になってしまったものだそうです」
「ハハア。成る程……ところでその甥はホントウに亜米利加《アメリカ》へ行ったのでしょうか」
「サア……それが疑問の中心なので、その筋では、これが当九郎の叔父殺しの前提だと睨《にら》んでいたそうですが」
「成る程……尤《もっと》も至極な疑問ですナ」
「……とにかく事件は、その甥が家出してから、三箇月ばかり経った後《のち》に……明治四十一年の三月の中旬でしたかに起ったものだそうで……源次郎氏は妻君に死に別れた上に、可愛がっていた甥にまで見棄てられて、赤ん坊の品夫と、お磯婆さんの三人切りになったので、多少|自棄《やけ》気味もあったのでしょう。それ
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