の上機嫌で、その獲物を肴《さかな》に一パイ飲《や》りながら、メチャメチャに妻君を熱愛するのが又、近所|合壁《がっぺき》の評判になっていたそうですがね。ハハハハハ。しかし、さもない時には、気が向かない限り、どこから迎えに来ても断って、酒ばかり飲んで寝ころんでいるといった調子で……金なども銀行や郵便局には預けずに、残らず現金にして、どこかにしまっておく……どこに隠しているかは妻君にも話さないという変り方だったそうです。……ただその妻君というのが、ソレ者《しゃ》上りらしい挨拶上手で、亭主の引きまわしがよかったために、やっと人気をつないでいたという事ですが……」
「なる程。そんな事で、とにかく琴瑟《きんしつ》相和《あいわ》していた訳ですな」
「そうです……ところが、その甥の当九郎という青年が実松家に入り込むようになると、その夫婦仲が、どうも面白くなくなったそうです。……これは品夫が生れる前から、長いこと雇われていたお磯という婆さんの話ですが、何故かわからないけれども源次郎氏の当九郎に対する愛情というものは吾《わ》が児《こ》以上だったそうで、当九郎に対するアタリが悪いと云っては、いつも品夫の母親
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