もない空想を抱くようになったのじゃないかと想像しているんですがね……貴方《あなた》の御意見はどうだか知りませんが……」
「……そうですね……それはそうかも知れませんが……。しかし何しろ私も、そんな噂話があるという事を、看護婦を通じて聞いただけですから、シッカリした考えは申上げかねるのですが……」
「……成る程……それじゃその事件のあらまし[#「あらまし」に傍点]だけを、今から掻《か》い抓《つま》んでお話してみましょうか。その時に立ち会った養父《ちち》の話ですから、村の噂などよりもズット正確な訳ですが……聞いてくれますか貴方は……」
「……ヘエ。それは是非伺いたいものですが……しかし……御承知の通り私は、すこし興奮すると、すぐに睡《ねむ》れなくなる性質《たち》なので、それに時間も遅いようですし……」
「……イヤ。まだ十時位でしょう。眠れなかったら、あとで散薬か何か上げますから、それを服《の》んだらいいでしょう。もう本当は退院されてもいい位に恢復しておられるのですから、一《ひ》と晩ぐらい夜更かしをされても大丈夫ですよ……僕が請け合います……」
「アハハハハ……イヤ。散薬なら二三日前に頂戴《
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