ちょうだい》したのがまだ残っていますが……」
「そうして適当な判断を下してくれませんか……品夫が外国の探偵小説にカブレて、そんな事を云い出したものか、それともほかに何か理由《わけ》があっての事か……どうかというような事を……」
「ハハハハハ……ドウモそう性急に仰言《おっしゃ》っちゃ困りますがね。……婦人の心理というものは要するに、男にはわからない物だそうですから……」
「まったくです。全然不可解なんです」
「アハハ……イヤ……私も無論、御同様だろうとは思いますが……それじゃ、とにかくその事件の成行《なりゆき》というものを伺った上で、一ツ考えさして頂きますかね」
「どうか願います……こうなんです。……品夫の父親というのは今から三十年ほど前に、親父《ちち》の玄洋が、この村の獣医として東京から連れて来た、実松《さねまつ》源次郎という男で、死んだ時が四十いくつとかいう事でした。生れは東北のC県で、T塚村という大村の、実松家という富豪の跡取《あととり》息子だったそうですが、どうした理由《わけ》か、故郷に親類が一人も居なくなったので、田地田畑をスッカリ金に換えて上京したものだそうです。そうして獣医
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