ヤ……村の者の噂は大部分事実なのです。品夫はたしかに氏素性《うじすじょう》のハッキリしない者の娘で、しかも変死者の遺児《わすれがたみ》に相違無いのです。つまり、その犯人が捕まらないために、何もかもが有耶無耶《うやむや》に葬られた形になっているので……」
「ハハア。……してみると所謂《いわゆる》迷宮事件ですな」
「そうなんです。品夫の父親が殺された事件は徹頭徹尾、迷宮でおしまいになっているのです。何しろ二十年も昔の事ですから、警察の仕事もいい加減なものだったでしょうし、おまけにこんな片田舎の高い山の上で行われた犯罪ですから、たしかな証拠なぞは一つも掴まれなかったらしいのです」
「成る程。しかし物的の証拠は無くとも、心的の証拠は何かあった訳ですね。犯人が仮想されていた位ですから……」
「それはそうです。その当時はたしかにそれに相違無いという犯人の目星がついていたのですが、今となっては、その犯人が捕まらないために、事件全体が五里霧中の未解決のままになっているのです。……ですから、そんなところから色々な噂も起って来るでしょうし、品夫も亦《また》ソンナ事を探偵小説的に考え過ぎた結果、飛《と》んで
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