ので欲しくてたまらず、コッソリ持出して廊下でボタンを押してみたが、どうしても開かないので、失望して、又ソット、モトの押入れに入れた。何だか恐ろしかったので、逃げるように表へ出た。
 又或る時、やはりお祖父様に、鼈甲縁《べっこうぶち》の折畳《おりたたみ》眼鏡を持って来て差上げた。これも、その折畳まり工合《ぐあい》が面白くて不思議なので欲しくてたまらず、そっと持出して引っぱってみる中《うち》に壊れてしまったらしい。お祖母様に大変に叱られた。
 又或る時、父は自分が東京から冠《かぶ》って来た臘虎《らっこ》の頭巾《ずきん》帽子をお祖父様に差上げた。お祖父様は大層お喜びになって、御自分でお冠りになり、それから私に冠せてアハハハと大きな声でお笑いになった。
 私は眼の前が真暗になった上に、臘虎の皮特有の妙な臭気がしたので直ぐに脱いで投棄てたように思う。
 その時に父はコンナ話を、お祖父様にした……と後《のち》になって私に話した。
「あの帽子は東京で一番|高価《たか》いゼイタクなものだったので、大得意で故郷に錦《にしき》を飾るつもりで冠って来たものです。染得《そめえ》たり西湖柳色の衣《い》というとこ
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