おん片隅に
女王様《わがきみ》の        御髪《みぐし》喰《は》みつゝ
髪切虫         今も啼《な》くなり
千年の         神秘をこめて
キツチ/\……ヰツチ/\……
  ……ギイ/\/\/\/\……」
[#ここで字下げ終わり]
「キッキッ。ギイギイギイギイギイ」
 桐の葉蔭の髪切虫は、思わず啼いてしまった。その拍子にイーサーの霊動がフッツリと感じられなくなってしまったが………。
 ……しかし……それでも若い髪切虫は感激にふるえ上ったのであった。
 ただ残念なことに、自分が果して二千年前の埃及《エジプト》女王クレオパトラの生れ変りなのか。それとも女王様の寝棺の中に秘め置かれた髪切虫か、※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]河馬《アマム》にも喰われず、太陽神《オシリス》にも叱られずに二千年後の今日《こんにち》、輪廻転生《りんねてんしょう》の道理に恵まれて、呼吸《いき》を吹返して来たものか、その辺のところがサッパリ判明しなかったが、やがて間もなく、そんな事はどうでもいい事に気が付いたので、髪切虫は一層、朗かになった。
「そうだ。妾《わた
前へ 次へ
全11ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング