し》はこれから恋を探さなければならない。そうして卵を沢山に生んで、可愛い子供をウジャウジャ撒《ま》き散らして、世界中の女の髪毛《かみ》をみんな朗かに啖《た》べさせて、一人残らずクルクル坊主にしてしまわなければならないのだわ」
けれども彼女は恋というものがドンナものか知らなかった。……一体恋なんていうものはドンナ処に、ドンナ風にして在るものだろう……と思って、ソロソロと桐の葉の上に匐い上りながらそこいらを見まわした。
桐畠の周囲の木立は、大きくまばたく夕星《ゆうずつ》の下《もと》に、青々と暮れ悩んでいた。その重なり合った枝と、葉と、幹の向うに白々と国道が横たわっていて、その向うのポプラの樹が行儀よく立並んだ間から、何だかわからない非常に美しいものが光って見えた。
それは何ともいえず匂やかな、柔かい薄桃色の絹シェードの光であった。
「アラッ。まあ何て神秘な光でしょう。……妾は思い出したわ。虫の血で染めたパピルスの行燈《あんどん》を……ナイル河に臨んだ王宮の燈火《ともしび》を……妾の恋はキットあそこに在るのに違いないわ」
それから彼女はシッカリと畳まっている左右の羽根を生れて初めて
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