悲しみ濡れて
朝まつり        いとおろそかに
夜のおとど       みあかし暗く
まさびしき       御閨《みねや》のうち
わが女王《きみ》は       寝がへらせつゝ
ひそやかに       歎かせたまふ」

われはこれ       美《く》はしの女王
エジプトの       御代を治めて
神々の         力をかねて
思ふこと        とゞかぬは無く
ねごふこと       かなはぬはなし
何一つ         不足なけれど
ただ一つ        みちたらぬもの
わが知れる       生きとし生ける
ものみなは       などかくばかり
たど/\と       ものうきやらむ」

天地は         古くよごれて
ものみなは       汗ばみつかれ
めざめては       又ゐねむりて
ちりひぢに       まみれ腐《くさ》れて
おなじ日と       おなじ月のみ
さびしらに       かゞよひ渡る」

われもまた       あだいたづらに
春秋《はるあき》を         老いて行くのみ
ああわれは       かくはか
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