広い広い土地は、まだその日の正午近くらしかった。その焦げ付く程熱した、沙漠の塵埃《ほこり》だらけの大空に、何千年か前から漂い残って、ニュートンの引力説に逆行し、アインシュタインの量子論を超越した虚空の行き止まりにぶつかって、極く極くデリケートな超短波の宇宙線に変化しながら、やっと引返して来たイーサーの霊動が、蛍《ほたる》の光のように青臭く、淋しく、シンシンと髪切虫の触角に感じて来るのであった。
 それはナイル河底の冥府《めいふ》の法廷で、今から一千九百六十五年前に、記録係のトートの神が読上げた、神秘的な、薄嗄《うすが》れた声が大空の涯から引返して来た旋律に相違なかった。
 青桐の幹にシッカリと獅噛み付いた髪切虫の触角がピインと一直線に伸び切って、眼にも止まらぬ位すばらしく細かく……ブルルン……ブルルン……ブルブルブルルルルルルルルルルルルルルルルル……と震動し初めた。

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エジプトの       御代しろしめす
美しき         クレオパトラの
わが女王《きみ》は       笑はせたまはず」

国々は         うれひに鎖《とざ》し
民草は     
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