て》を見つめていた親や身内の者共は、最早《もう》いよいよ二人共に、死んだものと諦めるより他に、仕方がなくなりました。
二人の両親の歎きは素より、村の者共の悲しみと驚ろきは一通りではありませんでした。いくら水潜りが上手でも、こんなに長い事水の底に居て生きておられる道理はありません。
けれどももしや船と船との間に、浮かみ上っているのではあるまいか。又はもしや悪い魚《うお》に喰われたとしても、せめて髪毛《かみのけ》位浮き上がりそうなものだ。いや、死んでいないから浮き上らないのだ。いや、死んでいても浮き上らないのだろう。
ああかも知れぬ、こうかも知れぬと、吾が事のように皆の者は八釜《やかま》しく評議を初めましたが、この時宇潮と藻取とはやっと気を取り直して、皆の者に向って異口同音に叫びました――
「皆の衆《しゅ》、聞いて下さい。私達はもう立派に諦めを付けました。二人の者は水の底で、鏡を見付けて、綱を結び付けて帰って来る途中で、何か悪い魚《うお》の餌食になったに違いない。そうでなければ最早《もう》疾《とっ》くに浮き上って来る筈だ。こうと知ったらば、前から刃物の一ツも持たせてやるところだったも
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