世界一の馬鹿な人だけは、これを本当《ほんと》にして読むのである。今のところそんな人はこの世の中《うち》に唯二人しかいない。その一人はニコニコ王様の長生《ながいき》の乞食の白髪小僧で、今一人はこの国の総理大臣の美留楼《みるろう》公爵の末娘|美留女姫《みるめひめ》である。そうしてこの書物の持ち主は、この書物に書いてある事を、初めからおしまいまで本当《ほんと》にして読む人――つまりこの白髪小僧と美留女姫二人より他には無いのである。
この書物にはその持ち主が、自分や他人の身の上について知りたいと思う事、又は他《た》の人に知らせたい、話して聞かせたいと思う事が、自由自在に挿《さ》し絵《え》や文字となって現われて来る。今美留女姫は自分がこの書物を手に入れた仔細《わけ》を、両親《ふたおや》やその他の人々に読んで聞かせたいと思っているから、このお話しは先《ま》ず美留女姫の身の上の事から始まらなければならない。
今この書物を声高らかに読んでいる美留女姫は前にもある通り、この国第一の金持ちで、この国第一の貴《たっと》い役目と身分とを持っている公爵美留楼という人の末娘で、今年十四になったばかりであるが、
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