め》ですから、皆は最早自分達が取りに行くよりもずっと勢い付いて、直ぐに支度に取りかかりました。その中でも美留藻のお父さんは取りわけ大威張りで――
「どうだ。俺の娘と婿殿を見ろ。えらいもんだ。二人で行けばどんな深い海に沈んだ者でも、直ぐに見つけるに違いない。又どんな恐ろしい魚《うお》が来ても大丈夫だ。二人共魚よりよく泳ぐのだから。ああ嬉しい。俺の娘と婿を見ろ。豪《えら》いもんだ。豪いもんだ」
 と無性に喜び狂うておりました。
 村人は先ず沢山の湯を沸《わ》かして、二人の身体《からだ》を浄《きよ》めました。それから髪を解かして、身体《からだ》と一所に新らしい布で包みました。そして新らしく作った喰べものを喰べさせて、新規に作った布団《ふとん》の中に、静かに二人を寝かしました。そうして翌《あく》る朝、まだ太陽の出ないうちに種々《いろいろ》の準備《したく》をすっかり整えまして、一ツの船には布で巻いた二人の潜り手、それからもう一ツの船には長い綱を積み、それから村中有り限《き》りの船を皆、沢山の赤や青の藻で飾り立てまして、陸《おか》の方から吹く朝風に一度に颯《さっ》と帆を揚げますと、湧き起る喊《とき
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