、女ならば銀の舟を一|艘《そう》御褒美《ごほうび》に下さるとの事だ。誰でもよい、王様のためにこの鏡を取りに行く者は無いか」
 この御布告《おふれ》を、美留藻と香潮が住んでいる村の間の、丁度中程に在る魚市場で、役人が大勢の人々を集めて申し渡した時に真先に――
「それは妾《わたし》が取って参りましょう」
 と願い出たものは誰あろう、水潜りにかけては村一番と評判の美留藻でした。そうしてそれと一緒に、美留藻の許嫁《いいなずけ》の香潮も美留藻と共々に鏡を取りに行きたいと申し出ました。
 これを聞いた役人は躍り上らんばかりに喜んで、今までこの湖のふちをぐるりと布告《ふれ》てまわったが、まだ二人のような勇ましい青年《わかもの》と少女《むすめ》は一人も居なかったと賞《ほ》め千切《ちぎ》りましたが、とにかくそれでは今から直ぐに支度をして、明日《あす》にも取りに行くようにと申し渡して、やがて都の方へ帰りました。村の者の喜びも一通りではありませぬ。何しろこの大きな湖のふちで、この二ツの村より他にこの大役を引き受ける処が無く、しかもその引き受けた者は、村第一の立派な青年《わかもの》と、村第一の美しい少女《むす
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