》の声と一緒に舳《へさき》を揃えて、沖の方へと乗り出しました。
 折柄風は追手《おって》になり波は無し、舟は矢のように迅《はや》く湖の上を辷《すべ》りましたから、間もなく陸《おか》は見えなくなって、正午《ひる》頃には最早十七八|里《り》、丁度湖の真中程まで参りました。そこで皆帆を巻き下して、船と船とをすっかり固く繋ぎ合わして、どんな暴風雨《あらし》が来ても引っくり返らないようにして、二人の潜り手が乗っている船と、綱を積んでいる船とを真中に取り囲みました。この時二人は身体《からだ》に巻いてあった布を取って、各自《てんで》に綱を一本|宛《ずつ》身体《からだ》に結び付けますと、船の両側から一時に、水煙《みずけむり》を高く揚げて、真青な波の底に沈みました。
 その中で美留藻は香潮よりも余程水潜りが上手だったと見えまして、香潮よりもずっと先に水を蹴って、銀色の泡を湧かしながら、底深く沈んで行きましたが、沈むにつれて四周《まわり》が次第に暗くなって、今まで泳いでいた魚《うお》は一匹も見えず、その代り今まで見た事もない、身体《からだ》中口ばかりの魚《うお》だの、眼玉に尻尾《しっぽ》を生やしたような魚
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