ないか。何も見る事も聞く事も出来ないではないか」
「イエイエ。それが出来るので御座います。私もまたこの世では殺されながら、この世の事を詳《くわ》しく見たり聞いたりして王様に御伝え申し上げる事が出来るので御座います」
「何だ。それではお前も俺達も生きているのと同じ事ではないか」
「はい。死にながら生きているので御座います」
「フム。それは不思議な魔法だ。してその魔法というのはどんな事を為《す》るのだ」
「私が今から行く末の事をすっかり考えてお話し致すので御座います。皆様が眼を瞑《つむ》ってそのお話しを聞いておいで遊ばせば、本当に御自分がその場においでになってその事を見たり聞いたりしておいで遊ばすのと同じ事で御座います」
 これを聞くと四人は手を拍《う》って感心を為《し》た――
「成る程、それは巧い法だ。お前がたった今の事からずっと後《あと》の事まで考えて、それをすっかりここで話す。それを俺達が聞いていれば、どんな恐ろしい危い事でも安心して面白がっておられる。そんな危なっかしい妃を迎えて生命《いのち》を堕《おと》すような事があっても、根がお話しだからちっとも差し支えはない。その後《のち》の
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