。けれどもその面白い出来事の根本《もと》になるその妃の素性がはっきりわからないではつまらないではないか。折角、今この世に王となって現われて面白い事を見聞きしながら、その事の起りがわからないというのは何にしても残念な事だ。折角の面白い事も楽しみが半分になってしまうであろう。これ、赤鸚鵡。どうかしてその妃の素性だけを知る事は出来ないか。美留藻か美紅かどちらかという事がわかる工夫はないか」
「はい。それは当り前から申しますれば到底出来る事では御座いませぬが、只一ツここに私が世にも不思議な魔法を心得ておりまする。
 その魔法を使う事を御許し下されますれば、王様がこの世を御去り遊ばして後《のち》の事までもはっきりとおわかりになる事が出来るので御座います。そうすれば王様のお妃が美留藻か美紅かという事もやがておわかりになる事と思います」
「何《なに》、俺達がこの世を去っても。それは可笑《おか》しい話ではないか。俺達がこの世を去れば又|旧《もと》の森に帰ってこの眼を閉じ、この耳を塞《ふさ》いで、この鼻から呼吸《いき》を為《せ》ずにしっかりと口を閉じて、じっと焚火《たきび》にあたっていなければならぬでは
前へ 次へ
全222ページ中77ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング