いう湖の傍《かたわら》に住む藻取《もとり》という漁師の娘で、名を美留藻《みるも》と申します。けれどもその二人の内どちらが王様の妃になるかという事が私にわかりませぬ。それで考えているので御座います」
「何……どちらか解からぬ」
「はい。その二人は、どちらも顔付きから智恵や学問や背恰好《せかっこう》、髪の毛の数まで、一分一厘違わぬので御座います。で御座いますから、どちらが王様の御妃になる運を持っておる女なのか、今では全く区別《みわけ》がつかないので御座います」
「フーム。ではしまいになればわかるのか」
「ハイ。けれども王様の御命の尽きる迄はわからずにおしまいになるだろうと思います。何故《なにゆえ》かと申しますと、もし藍丸王様がその娘のどちらかわかりませぬが御妃にお迎い遊ばすと、どうしても王様の御命は来年中に、丁度その御妃の素性がおわかりになる少し前にお果てになりますし、私や鏡の生命《いのち》も、それと一所に尽きてしまうからで御座います。その代りその間は毎日毎日不思議な話や珍らしい物語の詰め切りで、濃紅姫と千年御一所に御暮し遊ばすよりもずっと面白う御座います」
「ふむ。それは成る程面白かろう
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