、初めてこの国に御出《おい》で遊ばしたその最初の御慰《おんなぐさ》みに、世にも美しい怜悧《りこう》な、それこそ王様が吃驚《びっくり》遊ばすような御妃を一人、御話し相手として差し上げたいと思いまして、私に探してくれと頼みましたので御座います」
 これを聞くと坊さんは横手を打って感心をした――
「成る程、これはよい思い付きであった。わし等の主人の石神様が初めてこの世にお出で遊ばした時に、第一番に御困り遊ばしたのは、一人も話し相手の無い事であった。もしも彼《か》の時一人でも御話し相手があったならば、あんなに淋しがりは遊ばさなかったであろう。してその妃は見つかったか」
「はい、三人見つかりました」
「してその名は何と云うのだえ」
「年は幾つだ」
 とあとの三人が畳みかけて尋ねた。
「はい。第一番に見つけましたのは、紅木大臣の姉娘で、紅矢《べにや》の妹の濃紅《こべに》姫と申しまして、年は十六。温柔《おとな》しい静かな娘で御座います。この娘はこの間|真実《ほんと》の藍丸王様が御妃に遊ばす御約束を、兄の紅矢と遊ばしたので御座いますが、もし王様がこの娘を御妃に遊ばしたならば、この国はいつでも泰平で、王
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