ていましたが、何しろあんまり不思議な話しで、どうも本当《ほんと》らしくない事ですから、父様は頭を左右に振りながら――
「これ娘、お前は本気でそんな事を云うのか。私はどうしてもお前の話しを本当《ほんと》にする事は出来ない。一体お前はどこでそんな奇妙な書物を手に入れたのだ」
 と言葉せわしく尋ねました。娘はどこまでも真面目《まじめ》で沈《お》ち着《つ》いて返事を致しました――
「いいえ、妾はちっとも気が狂ってはおりませぬ。そして又この書物に書いてある事を疑う心は少しも御座いませぬ。お父様でもお母様でもどなたでも、一度この書物に書いてあるお話しを御聞き遊ばしたならば、矢張《やっぱ》り屹度《きっと》妾と同じように本当に遊ばすに違いありませぬ。でもこの書物には白髪小僧様と、妾の身の上に就《つ》いて、今まであった事や、行く末の事が些《すこ》しも間違いなく委《くわ》しく書いてあるので御座いますもの。ですからこの書物を読みさえすれば妾がどうしてこの書物を手に入れたかという事も、すっかりおわかりになるので御座います。又今から後《のち》白髪小僧様と妾の身の上がどうなって行くかという事も、追々とおわかりにな
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