どき》に娘の顔を見つめました。皆から顔を見られて、娘は恥かしそうに口籠《くちご》もりましたが、とうとう思い切って、
「その訳《わけ》はこの書物にすっかり書いて御座います」
と云いながら、懐《ふところ》から黒い表紙の付いた一冊の書物を出しました。
「この書物に書いてある事を読んで見ますと、白髪小僧様は今までこの国の人々が見た事も聞いた事もない不思議な国の王様なので御座います。ですからこの世の中でどんなに貴い物を差し上げても、どんなに面白い物を御目にかけても、御喜びになる気遣《きづか》いはあるまいと思います。そうしてそればかりでなく、白髪小僧様が妾《わたし》の命を御助け下さるという事は、ずっと前から定《き》まっていた事で、その証拠にはこの書物には、妾が水に落ちましてから、助けられる迄の事が、ちゃんと書いてあるので御座います。決して御礼を貰おうなどいう卑《さも》しい御心で御助け下さったのでは御座いませぬ」
と決然《きっぱり》とした言葉で申しました。
両親は云うに及ばず、大勢の人々もこの娘の不思議な言葉に、心の底から驚いてしまって、暫《しばら》くはぼんやりと娘の顔と白髪小僧の顔とを見比べ
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