第一等の仕立屋が作った着物を、毎日着換えさせて、この都第一等の御料理を差し上げて、この街第一の面白い見せ物を見せて上げます」と云っても、「山狩りに行こう」と云っても、「舟遊びに連れて行く」と云っても、ちっとも嬉しがる様子はなく、それよりもどこか日当りの好い処へ連れて行って、午睡《ひるね》をさしてくれた方が余《よ》っ程《ぽど》有り難いというような顔をして大きな眼を瞬いておりました。
とうとう皆持てあまして愛想を尽かしてしまいました処へ、最前《さっき》から椅子に腰をかけてこの様子を見ながら、何かしきりに溜息《ためいき》をついて考え込んでいた娘は、この時|徐《しず》かに立ち上って清《すず》しい声で、
「お父様、お母様。白髪小僧様は仮令《たとい》どんな貴《たっと》い品物を御礼に差し上げても、又どんな面白い事をお目にかけても、決して御喜びなさらないだろうと思います。妾《わたし》はその理由《わけ》をよく知っています」
と申しました。
「何、白髪小僧さんにどんな御礼をしても無駄だと云うのかえ。それはどういうわけです」
と両親は言葉を揃えて娘に尋ねました。傍に居た大勢の人々も驚いて皆|一時《いち
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