眼くばせをしますと、大勢の家来は心得て引き下がって、今度は軽くて温かそうで美しい着物や帽子や、お美味《い》しくて頬《ほお》ベタが落ちそうな喰べ物などを山のように持って来て、白髪小僧の眼の前に積み重ねました。けれども白髪小僧は矢張りニコニコしているばかりで、その中《うち》に最前の午寝《ひるね》がまだ足りなかったと見えて、眼を細くして眠《ね》むたそうな顔をしていました。
 大勢の人々は、こんな有り難い賜物《たまもの》を戴《いただ》かぬとは、何という馬鹿であろう。あれだけの宝物があれば、都でも名高い金持ちになれるのにと、呆《あき》れ返ってしまいました。娘の両親も困ってしまって、何とかして御礼を為様《しよう》としましたが、どうしてもこれより外に御礼の仕方はありませぬ。とうとう仕方なしに、誰でもこの白髪小僧さんが喜ぶような御礼の仕方を考え付いたものには、ここにある御礼の品物を皆|遣《や》ると云い出しました。けれども何しろ相手が馬鹿なのですから、まるで張り合いがありませんでした。
「貴方をこの家《うち》に一生涯養って、どんな贅沢《ぜいたく》でも思う存分|為《さ》せて上げます」と云っても、又「この都
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