同じだからどっちが本物か解からない。序《ついで》にこうしておいてやる」
 と云いながら傍に消え残った真赤な燃えさしを取り上げて、ニコニコ笑っている白髪小僧の顔へいきなりぐっと押し付けて、大きな十文字の焼け痕《あと》を付けた――
「ハハハハ。こうしておけば、よもや本当の藍丸王と気付く者はあるまい。おお。馬よ、来い来い」
 と招き寄せると、不思議や立《た》ち竦《すく》んで石のようになっていた筈の馬が、今は易々《やすやす》と動き出して直ぐに王の傍へ来た。王はそれにヒラリと飛び乗って、赤鸚鵡の眼の光りを便りに、森の外へと駈け出した。あとに残った盲目《めくら》の唖の白髪小僧は、最前の焼けどは熱くも何ともなかったと見えて、赤く腫《は》れ上って引《ひっ》つった顔のまま、ニコニコ笑いながら四ツの道具を抱えて、どこを当《あて》ともなく、この森を彷徨《さまよ》い出た。
 話し変って、最前四方にわかれて、赤鸚鵡を探しに行った紅矢や兵隊達は、何も見つからぬ内に日が暮れてしまったので、急いで約束の樫の木の森に来て見ると、今度は他の者は皆揃ったが肝要《かんじん》の王様が居ない。これは大変だと皆一度に馬に飛び乗って
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