、口々に藍丸王様藍丸王様と叫びながら暗い山の中を駈け出すと、その中《うち》に南の方の立木の間から、真赤に光る松明《たいまつ》が見えて来た。
ところが不思議や四十人の騎馬武者が乗っている馬は、この光りをチラリと見るや否や一度に立ち竦んで一歩も前へ進まなくなった。打っても叩《たた》いても動かない。蹴っても煽《あお》ってもどうしても、石のように固くなっている。
皆は驚き慌てて、これはどうした事と騒ぎ立てたが、中にも紅矢は吃驚《びっくり》して――
「皆の者、気を付けよ。あの光りは怪しい光りだぞ。事に依《よ》ると魔者かも知れぬぞ。皆馬から降りて終え。弓を持っている者は矢を番《つが》えよ。剣を持っている者は鞘《さや》を払え。あれあれ。だんだん近付いて来る。皆紅矢に従《つ》いて来い。相図をしたらば一時に矢を放して斬りかかれ」
と叫んだ。声に応じて四十人の武者《さむらい》は、一度に馬から飛び降りて、二十人は弓を満月のように引き絞り、あとの二十人は剣を構えて眼の前に近付いて来た光る者にあわや打ちかかろうとした。ところがこの時遅く彼《か》の時早く、紅矢は又もや一声高く――
「待て。粗相するな。王様だ
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