。旨い。旨い。
王様に。なる時が来た。
この国とって。我儘云うて
楽しみをする時が来た」
とこんな風に繰り返し繰り返し唄っては踊り、踊っては唄いしていたが、その内に真裸体《まっぱだか》の赤ん坊が、糸の無い月琴を弾き止《や》めると、皆一時にピタリと踊りを止《や》めて、手に手に持っている道具を藍丸王に渡した。
藍丸王が何気なく、クリクリ坊主から振り子の無い木の鈴を受け取ると、こは如何《いか》に、急に唇や舌が痺《しび》れて仕舞って声さえ出なくなった。次に瘠せ女から白紙の書物を受け取ると、今度は眼が見えなくなった。赤ん坊から月琴を受け取ると鼻が利かなくなってしまった。爺《じじ》から笛を受け取るととうとう耳まで聾《つんぼ》になって、どっちが西やら東やら、自分がどこに居るのやら、全く解からなくなってしまった。
この体《てい》を見た四人の魔者は、又もや嬉しそうに藍丸王の周囲《まわり》を踊り廻わって――
「藍丸王はとうとう死んだ。
生きていながら死んで終った。
この世に居ながらこの世に居ない」
面白面白面白い。
俺等《おいら》の主人の石神様は
眼も見え耳も聞こえていたが
広い荒
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