には何にも聞かれぬ恨み
鼻には湖の香|埃《ほこり》のかおり
他には何にも嗅《か》がれぬ恨み
舌には話しの相手も無くて
泣くも笑うも只身一ツの
淋《さみ》しい淋しい怨みを籠めて
あとに残して死んでしまった」
見たい見たいが眼玉の望み――
耳は何でも聞きたい願い――
鼻は何でも嗅《か》ぎたい願い――
舌は何でも話したい――
俺等《おいら》が主人《あるじ》の石神様の
怨みの籠もった四つの道具」
書物から出た瘠せ女。
笛から湧き出たお爺さん。
月琴から出た裸体《はだか》の赤児《あかご》。
鈴から出て来たクリクリ坊主」
四人の家来は石神様の
この世を咀う使わしめ」
坊主の持ってる木の鈴は
王の口をば閉じるため。
女の持ってる書き物は
王の眼玉を潰すため。
赤児の持ってる月琴は
王の鼻をば塞《ふさ》ぐため。
爺《じじい》の持ってる石笛は
王の耳をば鎖《とざ》すため。
そうして王を追い出して
四人が代りに王様の
一人の姿に化け込んで
王の威光を振りまわし
勝手な事を為度《した》いため」
面白い。面白い。有難い。有難い。
占めた。占めた
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