皺の間から大きな皿のような眼と、真赤な口をパッと開いてゲラゲラと笑ったと思うと、それを相図に他の三人は一度に立ち上って、焚火と藍丸王の周囲《まわり》をグルグルまわりながら、奇妙な舞踊《おどり》を始めた。先《ま》ず瘠せ女が白紙の書物を開いて、奇妙な節を付けて歌を唄いながら踊り初めると、あとから赤ん坊が糸の無い月琴をバタンバタンと掌《てのひら》で叩きながら従《つ》いて行く。それにつれてあとの二人は、手に持った道具を振り廻しながら、まるで蟋蟀《こおろぎ》か海老《えび》のように、調子を揃えてはねまわって行った。その歌はこうであった。
「占《し》めた。占めた。旨《うま》い。旨い。
王様になる時が来た。
この国取って我儘《わがまま》云うて
楽しみをする時が来た」
俺達は石神様の
大切な四人の家来。
眼と口と。鼻と耳と」
藍丸の国のはじめに
御主人の石神様が
見るもの聞くもの何にも無くて
たった一人の淋しさつらさ
我慢出来ずに吾が身を咀《のろ》い
天地を咀って死んでしまった」
眼には荒野《あれの》の石より他に
見るものも無い恨みを籠《こ》めて
耳には風音波音ばかり
他
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