と焚火の側に近寄って来た。
 見ると火の傍には四人の不思議な人間が、寝たり座ったりして火にあたっている。右の端に坐っているのは黄色い髪を垂らして、穴の無い笛を吹いている汚《きたな》いお爺さんで、その次に寝ころんでいるのは絶えず振り子の無い木の鈴を振り立てている、眉毛も髯も無いクリクリ坊主である。
 それからその端にうつ伏せに寝ころんでいるのは、瘠《や》せこけて青ざめた、眼ばかり光る顔に、黒い髪毛《かみのけ》をバラバラと垂らした女で、手には一冊の字も絵も何も書いて無い、白紙の書物を拡げて読んでいる。そしてその右には赤|膨《ぶく》れに肥った真裸体《まっぱだか》の赤ん坊が座って、糸も何も張って無い古|月琴《げっきん》を一挺抱えて弾いていた。並大抵の者がこのような処でこんな者を見たならば、身体《からだ》中の血が凍《こご》えて終うかも知れないのであるが、そこは藍丸王は平気な者で、却《かえっ》て珍しそうにニコニコ笑いながらその前へ近寄って、火の上に手を翳《かざ》した。
 すると今まで顔中皺だらけで、どこに眼があるか口があるか解からなかったお爺さんは、藍丸王が側に来て踞《しゃが》んだのを見るや否や、
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