に居りまする。淋しくここに居りまする。
恋しい御方の御出《おい》でをば。御待ち申しておりまする。
青い空には雲が湧く。黒い海には波が立つ。
昔ながらの世の不思議。見たか聞いたか解ったか。
よしや夢でも現《うつつ》でも。妾はここに居りまする。
淋しくここに居りまする。妾の名前は赤鸚鵡」
皆は顔を見合わせて、それっというと俄《にわか》に元気百倍して駈け出したが、どう為《し》たものか十人が十人共、各自《てんで》に一人は東、一人は西と違った方に声を聞いて、こっちだこっちだと云いながら、八方に散って行った。
あとに残った藍丸王は、どっちとも解らず、只その声の為《す》る方に迷い迷うて、いつの間にか只《と》ある谷の奥深く、真暗な杉の木立の中へ這入って仕舞った。
その時は最早《もう》短い秋の日が暮れて、鳥の声も聞こえなくなっていたが、その代り真暗な杉の森の奥にチラチラと焚火《たきび》の光りが見えて来た。その火を見ると今まで音《おと》なしく王を乗せて来た白馬《しろうま》が驚いたと見えて、急に四足を突張って動かなくなったから、藍丸王は馬から降りて手綱《たづな》を放り出したまま、つかつか
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