に、今まざまざと居るように、
美留女の智恵や学問を、妾はちゃんと持っている。
夢は覚めても忘れずに、妾はちゃんと持っている。
扨は今のは正夢か、本当にあった事なのか。
そして妾があのように貴い身分になる事を、
前兆《まえじ》らせする夢なのか、本当《ほんと》に不思議な今朝《けさ》の夢。
銀杏の根本で繙《ひもど》いた、不思議な書物の中にある、
妾の女王の絵姿は、絵空事ではなかったか。
空には白い星の数、海には青い波の色。
棚引く雲の匂やかに、はや暁の色染めて、
東の空にほのぼのと、夢より綺麗な日の光り。
赤い鸚鵡よどうしたの、まあ恐ろしい美しい、
真赤な真赤な光明を、眩しい位輝やかし、
あれ羽ばたきをするうちに、窓から高く飛び上り、
東の空に太陽の、光りが出ると一時《いちどき》に、
海の面《おもて》に湧き上る、金銀の波雲の波、
蹴立て蹴立てて行く末は、あと白波の沖の方、
あれあれ見えなくなりました……」
藍丸王は又もやこの歌に聞き惚《と》れて、うっとりと眼を細くして夜《よ》の更《ふ》けるのも忘れていた。
するとその中《うち》お寝《やす》みの時刻
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