ほんと》なら、又はどちらも夢ならば、
妾は居るのか居ないのか、解らぬようになりまする。
よし夢にせよ何にせよ、妾の不思議な身の上を、
よく考えて頂戴な、妾の窓の直ぐ傍に、
妾の歌の真似をする、大きな綺麗な赤鸚鵡。
怪しい夢の今朝|醒《さ》めて、日が出て月は沈んでも、
鳥が木の間《ま》に歌うても、まだ眼に残る幻影《まぼろし》は、
白い御髪《おぐし》に白い肌、月の御顔《おんかお》雲の眉《まゆ》、
世にも気高い御姿《おんすがた》、乞食の王の御姿。
白い御髪《おぐし》を染め上げて、緑の波をうずまかせ、
金《こがね》の冠《かんむり》差し上げて、銀の椅子に召されたら、
まだ拝まねどこの国の、尊いお方に劣るまい。
妾の大切《だいじ》な姉様は、はや近い内皇后の、
位に御即《おつ》きなさるとか、今朝兄上が仰《おっ》しゃった。
兄上様の御名前は、聞くも凜々《りり》しい紅矢様、
姉上様の御名前は、花の色添う濃紅姫《こべにひめ》。
妾は大切《だいじ》な姉様の、世にも目出度い御仕合わせ、
嬉しい事と思いつつ、楽しい事と思いつつ、
自分は独り居残って、昨夜《ゆうべ》の
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