ほんと》なら、又はどちらも夢ならば、
 妾は居るのか居ないのか、解らぬようになりまする。

 よし夢にせよ何にせよ、妾の不思議な身の上を、
 よく考えて頂戴な、妾の窓の直ぐ傍に、
 妾の歌の真似をする、大きな綺麗な赤鸚鵡。

 怪しい夢の今朝|醒《さ》めて、日が出て月は沈んでも、
 鳥が木の間《ま》に歌うても、まだ眼に残る幻影《まぼろし》は、
 白い御髪《おぐし》に白い肌、月の御顔《おんかお》雲の眉《まゆ》、
 世にも気高い御姿《おんすがた》、乞食の王の御姿。

 白い御髪《おぐし》を染め上げて、緑の波をうずまかせ、
 金《こがね》の冠《かんむり》差し上げて、銀の椅子に召されたら、
 まだ拝まねどこの国の、尊いお方に劣るまい。

 妾の大切《だいじ》な姉様は、はや近い内皇后の、
 位に御即《おつ》きなさるとか、今朝兄上が仰《おっ》しゃった。
 兄上様の御名前は、聞くも凜々《りり》しい紅矢様、
 姉上様の御名前は、花の色添う濃紅姫《こべにひめ》。

 妾は大切《だいじ》な姉様の、世にも目出度い御仕合わせ、
 嬉しい事と思いつつ、楽しい事と思いつつ、
 自分は独り居残って、昨夜《ゆうべ》の
前へ 次へ
全222ページ中49ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング