第三番目のお姫様《ひいさま》、これはどうした事でしょう。

 着物も家も何もかも、すっかり変って吾が名さえ、
 美紅《みべに》とかわっておりまする。只変らぬは御両親、
 お兄様や姉様や、又は家来の顔ばかり。

 これは夢かと疑えば、傍から皆《みんな》笑い出し、
 お前は何を云うのです、何か夢でも見たのかえ。
 お前は旧来《もと》からこの家《うち》の、可愛い可愛い美紅姫。

 ずっと前からお話が、何より何より大好きで、
 御本ばかりを読み続け、夢中になっておった故、
 いくらか気持が変になり、十幾年のその間、
 他《た》の処へ居たという、馬鹿気た長い夢を見て、
 それを本当にして終い、寝ぼけているのに違いない、
 可笑《おか》しい人と皆《みんな》から、お笑い草にされました。

 けれども妾はどうしても、今の妾が本当か、
 昔の妾が夢なのか、疑わしくてなりませぬ。

 妾の今が夢ならば、あれだけ皆《みんな》で笑われて、
 また疑っている筈は、どう考えてもありませぬ。
 昔の妾が本当《ほんと》なら、まだ夢を見ぬその前を、
 少しも思い出す事が、出来ない筈はありませぬ。
 今も昔も本当《
前へ 次へ
全222ページ中48ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング