、
第三番目のお姫様《ひいさま》、これはどうした事でしょう。
着物も家も何もかも、すっかり変って吾が名さえ、
美紅《みべに》とかわっておりまする。只変らぬは御両親、
お兄様や姉様や、又は家来の顔ばかり。
これは夢かと疑えば、傍から皆《みんな》笑い出し、
お前は何を云うのです、何か夢でも見たのかえ。
お前は旧来《もと》からこの家《うち》の、可愛い可愛い美紅姫。
ずっと前からお話が、何より何より大好きで、
御本ばかりを読み続け、夢中になっておった故、
いくらか気持が変になり、十幾年のその間、
他《た》の処へ居たという、馬鹿気た長い夢を見て、
それを本当にして終い、寝ぼけているのに違いない、
可笑《おか》しい人と皆《みんな》から、お笑い草にされました。
けれども妾はどうしても、今の妾が本当か、
昔の妾が夢なのか、疑わしくてなりませぬ。
妾の今が夢ならば、あれだけ皆《みんな》で笑われて、
また疑っている筈は、どう考えてもありませぬ。
昔の妾が本当《ほんと》なら、まだ夢を見ぬその前を、
少しも思い出す事が、出来ない筈はありませぬ。
今も昔も本当《
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