しま》う白髪小僧の藍丸王が、彼《か》の美留女姫の姿や声だけははっきりとよく記憶《おぼ》えていたものと見えて、今しも宴会が済んで自分の室《へや》に連れられて帰ると直ぐに、この赤鸚鵡の声に耳を留《と》めて、着物を着かえる間《ま》も待ち遠しそうに、急いで傍の銀の椅子に腰を卸《おろ》すとそのまま一心にその歌に聞き惚《と》れた。
その歌の節は云うに及ばず、文句までも昨夜《ゆうべ》の夢の美留女の読み上げた歌によく似ていた。
「青い空には雲が湧く、けれども直ぐに消え失せる。
黒い海には波が立つ、それでも直ぐに消えて行く。
昔ながらの世の不思議、見たか聞いたか解かったか。
昨夕《ゆうべ》妾《わたし》が見た夢の、扨《さて》も不思議さ恐ろしさ。
白髪小僧の物語。そして妾の物語。
その又夢の中で見た、この身の上のおしまいに、
昨夜《ゆうべ》どこかの森|中《なか》へ、白髪小僧と逃げ込んで、
樹の根に倒れたそれ迄は、妾は美留楼《みるろう》公爵の、
第三番目の女の子、名をば美留女というたのに、
今朝《けさ》眼が覚めて気が付けば、扨も不思議や見も知らぬ、
藍丸国の大臣で、紅木と名乗る公爵の
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