った。
六 大臣と漁師
これから後《のち》、藍丸王が見たいろいろの出来事は、当り前の者ならばその都度《つど》驚いて、眼でも眩《ま》わして終わなければならぬような事ばかりであった。
今日は藍丸国王の御誕生日だというので、紅木《べにき》公爵という、丈の高い、黒い髪を生やした、あの美留女《みるめ》姫のお父様によく肖《に》た総理大臣と、沢山の護衛の兵士に連れられて、お城の北の紫紺樹《しこんじゅ》という樹の林の中に在る、石神の御廟《みたまや》に朝の御参りをしたが、その時沢山の兵士が皆一時に剣を捧げて敬礼をした時の神々《こうごう》しかった事。それから宮中の大広間に出て、大勢の尊い役人や、この国の四方を守る四人の王様や、その家来達から、一々御祝いの言葉を受けた時の厳《おご》そかだった事。又は美事な十二頭立の馬車に乗って、前後を騎兵に守らせながらお城の南の広い野原に出て、何万何千とも知れぬ兵隊の観兵式を行《や》らせた時の勇ましかった事。それから夜になって、宮中に催された大音楽会と、大舞踏会と、大晩餐会《だいばんさんかい》の大袈裟《おおげさ》であった事。その他見る者聞くもの何一ツとして
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