せる。も一人は身体《からだ》中を拭《ぬぐ》い上げる。残った一人はうしろから髪を梳《す》く。おしまいの一人は香油《においあぶら》を振りかける。皆順序よく静かに役目をつとめて、先《ま》ず黒い地に金モールを附けた着物を着せ、柔らかい青い革の靴を穿《は》かせ、金銀を鏤《ちりば》めた剣を佩《は》かせて、おしまいに香油を塗った緑色の髪を長く垂らした上に、見事な黄金《きん》の王冠を戴《いただか》せて、その上に厚い白い、床に引きずる位長い毛皮の外套《がいとう》を着せたから、今まで着物一枚に跣足《はだし》でいた白髪小僧の藍丸王は、急に重たく窮屈なものに縛《しば》られて、身動きも出来ない位になった。それから六人の小供達は三組に分れて、室《へや》の三方に付いている六ツの窓を開いて、朝の清らかな光りと軽い風とを室一パイに流れ込ませた。そうして暁の透《す》き通った青い光りの裡《うち》にうつらうつら瞬く星と、夢のように並び立っている宮殿《ごてん》と、その前の花園と、噴水と、そのような美しい景色を見て恍惚《うっとり》としている藍丸王を残して、種々《いろいろ》の化粧道具と一所に、六人の小供はどこへか音も無く退いてしま
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