にかけなかった。その上に自分が白髪小僧であった事なぞは疾《とっ》くの昔に忘れてしまっている。そして只眼を丸く大きくパチパチさせながら頭を今一度軽く左右に振った切りであった。
青眼は、いよいよ王があの夢を見ていないのだと思うと、急に安心したらしく、ほっと嬉《うれ》しそうな溜《た》め息《いき》をした。そして又|恭《うやうや》しく長いお辞儀をしながら――
「王様。私はこのように安堵《あんど》致した事は御座いませぬ。夜分にお邪魔を致しましていろいろ失礼な事を申し上げた段は、幾重《いくえ》にも御許し下さいまし。最早《もう》夜が明けて参りました。小供達を喚《よ》んで朝のお支度を致させましょう」
と云った。
老人が又改めて長い最敬礼をして退くと、入れ交《かわ》って空色の着物を来た最前《さっき》の小供等が六人、今度は手に手に種々《いろいろ》な化粧の道具を捧げながら行列を立てて這入って来て、藍丸王に朝の身支度をさせた。
一人がやおら手を取って王を寝床から椅子へ導くと、一人は大きな黄金《きん》の盥《たらい》に湯を張ったのを持って、その前に立った。傍の一人は着物を脱がせる。他の一人は嗽《うがい》をさ
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