ませんでした。私は王様を御疑い申し上げる訳では御座いませぬけれども、もしや王様は、只今御覧遊ばした夢を御忘れ遊ばしたのでは御座いませぬか。白い着物を着た悪魔の娘と一所に、私の跡をお追い遊ばして、銀杏の葉に書いた文字を御覧遊ばしたのでは御座いませぬか。屹度、屹度御覧遊ばしませぬか。もし御隠し遊ばすと王様の御身《おみ》の上やこの国の行く末に容易ならぬ災《わざわ》いが起りまするぞ」
青眼の言葉は次第に烈《はげ》しくなって来た。そしてさも恐ろしそうに王の顔を見入りながら、力を籠《こ》めて問い詰めた。
青眼がどうしてこんな事を尋ねるのか、又あの銀杏の葉に書いてあったお話が何故こんなに気にかかるのか。そうして又あのお話を聞けば何故そんな災いがふりかかるのか――そして青眼はどうしてそれを知っているのであろうか。藍丸王がもし当り前の人間ならば、こんないろいろの疑いを起して青眼にその仔細《わけ》を尋ねるであろう。ところが藍丸王は旧来《もと》の白髪小僧の通り白痴《ばか》で呑気《のんき》でだんまりであった。第一今の身の上と最前《さっき》までの身の上とはどっちが本当《ほんと》なのか嘘なのか、それすら全く気
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