ん》が玉のような水を水晶の盃《さかずき》に掬《く》んで来て、謹《つつ》しんで眼の前に差し出したから、取り上げて飲んで見ると……その美味《おい》しかった事……そうしてその水には何か貴《たっと》い薬でも這入っていたものと見えて、今までの疲れも苦しさもすっかりと忘れてしまって、身体《からだ》中に新らしい元気が満ち渡るように思った。
 青眼|爺様《じいさん》は白髪小僧の藍丸王が飲み干した盃を受け取って、傍の小供に渡すと直ぐに又眼くばせをして、六人の小供を皆遠くの廊下へ退《しりぞ》けて、只《ただ》独《ひと》り王の前に蹲《ひざまず》いて恐る恐る口を開いた――
「王様。恐れながら王様は只今何か夢を御覧遊ばしたのでは御座いませぬか」
 藍丸王は又もや言葉がよく解らないために返事が出来なかった。只何だかわからないという徴《しるし》に、頭を軽く左右に振って見せた。けれども青眼爺は何だか心配で堪《たま》らぬように、じっと藍丸王の顔を見つめていた。そうして重ねて一層叮嚀な言葉で恐る恐る尋ねた。
「王様。私は今日迄王様のお守り役で御座いました。で御座いますから、今まで何事も私にお隠し遊ばした事は一ツとして御座い
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