事を止めなかった。とうとう山の中へ分け入って、小さな池の縁をめぐって、深い大きな杉の森に這入った時は、あたりがすっかり真暗になって、あとにも先にももう何にも見えず、只怖ろしさの余り声を震わして泣いて行く美留女姫の声を便りに、木の幹を手探りにして追うて行った。その内に白髪小僧は、ヒョロヒョロに疲れて、息をぜいぜい切らすようになった。それでも構わずに走っていると、あっちの根っ子に引っかかり、こっちの幹に打《ぶ》っつかり、もうこの上には一足も行かれないようになって――
「オーッ」
と呼んだと思うと、そのままそこによろめき倒れてしまった。
五 七ツの灯火
すると不思議な事には今呼んだ声が、誰かの耳に這入ったものと見えて、遠くで高らかに――
「オ――オ……」
と返事をする声がきこえた。白髪小僧はじっと顔を挙げて向うを見ると、丁度《ちょうど》今声の聞こえたあたりに小さな燈光《あかり》が一ツチラリと光り初めた。やがて、その光りが三ツになった。五ツになった。七ツになった。と思う間もなくその七ツの燈火《ともしび》が行儀よく並んでこちらへ進んで来た。その七ツの燈火《ともしび》に照らされ
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