った。けれども美留女姫は少しも気が付かずに先へ走るし、白髪小僧もそのあとからくっついて、お爺さんが立ち止まった隙《ひま》にドンドン駈け出して行った。この様子を見るとお爺|様《さん》はもう狂気《きちがい》のように周章《あわて》出して――
「あれ。王様。王様。これはどうした事で御座います。お待ち下さりませ。お待ち遊ばせ。その女は悪魔……大悪魔で御座いますぞ。飛んでもない。飛んでもない。お待ち……お待ち遊ばせ。王様。王様」
と息を機《はず》ませて、又もや宙を飛んで追っかけた。
こうして三人は追いつ逐《お》われつ、だんだん人里遠く走って来たが、美留女姫はもう苦しくて苦しくて堪《たま》らないような声を出して――
「白髪小僧さん……白髪小僧さん……」
と呼びながらふり返りふり返り走って行く。うしろからはお爺さんが青い眼玉を血走らして――
「藍丸王様……王様……藍丸様ア」
と呼びながら追っかける。白髪小僧は只|無暗《むやみ》に息を切らして駈け続けた。
やがて夕日は西の山にとっぷりと落ち込んで、あたりが冷たく薄暗くなった。野原には露が降りて、空には星が光り初めた。けれどもお爺さんは追っかける
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