縋って――
「あれ、助けて頂戴。白髪小僧さん。助けて頂戴。あのお爺様に殺されます。妾《わたし》を助けて頂戴。連れて逃げて頂戴。早く。早く」
と云いながら、もう先へ立って駈け出した。この様子を見たお爺さんは益々腹を立てて真赤になって、
「奴《おの》れ悪魔の娘、逃げようとて逃がすものか。空の涯までも追っかけて引っ捕えてくれる。引っ捕えたら生かしてはおかないぞ。あとから行く白髪の男、貴様も待て。二人共悪魔であろう。国を乱す悪魔であろう。石神の文《ふみ》を読んだからには悪魔の片われに違いない。逃がす事は出来ないぞ。生かしておく事は出来ないぞ」
と大きな声で喚《わめ》きながら追っかけた。
ところがこの時白髪小僧は、美留女《みるめ》姫に誘われて一所にあとから逃げながら、このお爺さんの喚《わ》めき声を聞き付けて不図うしろをふり返ると、その顔を一目見るや否や、お爺さんは又もや腰の抜ける程驚いた様子で――
「ヤヤ。貴方《あなた》様は藍丸国王様では御座いませぬか。どうしてここにお出で遊ばしました。そうしてそのお姿は……まあ、何という恐れ多い……浅ましいお姿……」
と呆気《あっけ》に取られて立ち止ま
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