を休め、
現《うつつ》ともなく夢ぞとも、御存じのない魂は、
他の世界へ抜け出でて、他の世界の人々に、
王の心の気楽さを、示し歩いておわします」[#最後の5行は底本では字下げなし]
ここまで読んで来ると生憎《あいに》く、先に立ったお爺さんは、この時|不図《ふと》袋が軽くなったのに気が付いて、変だと思いながらふり返って見ると、自分の背中の袋から落ちた銀杏の葉が、ずっと背後《うしろ》まで長く続いているのを見付けた。これは大変と吃驚《びっくり》して袋を調べて見ると、最前《さっき》美留女姫が鋏で切り破った穴が、袋の底に三角に開《あ》いている。お爺さんはこれを見ると憤《おこ》るまい事か――
「奴《おの》れ小娘、覚悟をしろ。こんな悪戯《わるさ》をして俺の大切な役目を破ったからには生かしておく事は出来ないぞ。どうするか見ておれ」
と大きな声で怒鳴りながら、忽《たちま》ち鬼のような顔になって袋も何も打《う》っ棄《ちゃ》って、あと引かえして追っかけて来た。
美留女姫は二度|吃驚《びっくり》。もう銀杏の葉の字を読むどころの沙汰《さた》ではない。慌てて逃げ出して、後《あと》から来た白髪小僧の袖に
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