しい女共と一所に、一週間の後に御目見得に出せとは、まあ何という浅ましい仰せであろうと、余りの悲しさ情なさに紅矢は前後を忘れてしまって、泣くにも泣かれず、只狂気のように頭の毛を掻《か》きむしりながら、驀然《まっしぐら》に王宮を駈け出ました。

     十三 名馬の蹄音

 紅矢が王宮を駈け出ますと、直ぐに王は又鏡に向って、最前の美留藻《みるも》がお婆さんに化けた後《のち》の有様を見せろと命じました。けれどもまだ鏡に何も映らぬ前に、王は不意に恐ろしい物音を聞きつけて叫びました――
「あれ。あの音は何だ。雷の響か。霰《あられ》の音か。否々《いやいや》。馬の蹄《ひづめ》の音だ。何という高い蹄の音であろう。何という疾《はや》い馬であろう。あれ、王宮の周囲《まわり》を街伝いに、もう一度廻ってしまった。あの馬の騎《の》り手はこの夜更けに何のためにこの王宮のまわりを駈けめぐるのであろう。あんな疾い馬がこの世に在るか知らん。騎《の》り人《て》は俺の知らぬ魔者ではないか知らん。あれ、最早《もう》二度まわってしまった。今度は三度目だ。これ、白銀《しろがね》の鏡。赤鸚鵡。美留藻の行衛《ゆくえ》は最早《もう》
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