様があのような御布告《おふれ》をお出し遊ばして、他の国々からお后をお選みになるという事を聞いて、妹思いの事で御座いますから、夢かとばかり驚きまして、直ぐに王様の御布告《おふれ》が本当かどうか伺いに参いるので御座います。今紅矢は廊下の番兵にお取次を頼みました。御聞き遊ばせ」
と云いも了《おわ》らぬうちに兵士の声が扉の外から――
「紅矢様の御出《おい》でで御座います」
と高らかに聞こえました。
王は直ぐに返事をしました――
「まだ誰もこの室《へや》に這入る事は相成らぬ。用事があるなら後《のち》に来い」
この言葉を扉の外で聞いていた紅矢は、全く夢に夢見る心地がしました。紅矢も青眼先生と同じように、王様からこのような荒々しい、菅無《すげな》い言葉を受けたのは、これが初めてでした。それでなくても濃紅姫の事を思うて、胸が一パイになっていた紅矢は思わず扉に取り付いて叫びました――
「王様。王様。王様は如何《いかが》遊ばしたので御座いますか。どうしてそのようなお情ない事を仰せられますか。紅矢で御座います。紅矢で御座います。何卒《なにとぞ》一度だけ御眼にかからせて下さいまし。私の妹の濃紅の事で、
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