たので御座いましょう。これと申すもあの鏡と鸚鵡、二ツの魔物が、王様の御心を眩《くら》ましたからで御座いましょう。何卒《どうぞ》、王様。御心を御静め遊ばして私の申す事を御用い遊ばして……」
 と喘《あえ》ぎ喘ぎ口説き立てましたが何にもなりませんでした。扉の中からは何の返事も聞こえず、却《かえっ》て廊下番の兵隊共に引き立てられて、王宮の御門から逐《お》い出されてしまいました。
 ところが青眼先生が引っ立てられて行くと間もなく、又もや赤鸚鵡が叫び立てました――
「あれあれ、王様、今度は紅矢が御目にかかりに来る様子で御座います。今|家《うち》から馬に乗りまして、この御殿の方へ出かけるところで御座います。
 只今紅矢が参りますのは他の事でも御座いませぬ。紅矢はずっと以前《まえ》に旧《もと》の藍丸王から、自分の第一番目の妹|濃紅《こべに》姫をお后に差し上げるよう、固い御言葉を受けておりまして、まだ家《うち》の者には話しませぬが、兄妹《きょうだい》共はそれを楽しみに致しておったので御座います。ところが紅矢はこの間から父の用事で、北の加美足国へ参いっておりましたが、今日帰って参りますと、今朝《けさ》王
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