というのはどんな男であろう」
と身を乗り出しました。すると間もなく美留藻の姿は鏡の表から消え失せまして、今度は醜い、怖《おそ》ろしい、骸骨のような化物の姿が現われました。そこは丁度鏡を取り上げた船の上の景色で、荒れ狂う波の上には、月の光りが物凄く輝いて、化物の姿を照しておりました。
「何だ。これが美留藻の許嫁の香潮という奴か。何という恐ろしい姿であろう。此奴《こいつ》が今に美留藻が俺の后《きさき》になった事を知ったならば、嘸《さぞ》俺を怨む事であろう。成程、これは面白い。赤鸚鵡赤鸚鵡、何卒《どうぞ》して此奴《こいつ》が死なないように考えて話してくれ。そうして俺に刃向って、大騒動を起すようにしてくれ。こんな珍らしい化物を無残無残《むざむざ》と殺しては、面白い話しの種が無くなる。相手に取って不足のない化物だ」
と叫びました。すると赤鸚鵡は静かに答えました――
「はい、畏《かしこ》まりました。もとより御言葉が無くとも香潮の身の上は今に屹度《きっと》そうなって参ります」
この言葉の終るか終らぬに又鏡の中の様子が変って、今度は広い往来が見え初めました。その往来の左右はどこかの青物市場と見え
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